バラード

ピアノ曲解説

バラードとは元来イタリア語で”物語”という意味です。ここでいう”物語”とは恐らく吟遊詩人の語るようなものを指していると思われます。ショパンはこの形式をピアノ独奏曲として初めて使った作曲家です。スケルツォやノクターンが他人からの範を得て創られたものに対して、”バラード”を音楽に用いるというのはショパン独自の創作です。

ショパンはバラード全部で4曲作曲しており各曲共通の特徴は、拍子(4分の6 8分の6)と力強いコーダなどが挙げられます。あくまで個人的な感想ですが、1番と2番はショパンらしいといえばショパンらしいのですが、3番と4番はあまりショパンらしくない不思議な曲に感じます。いかにもショパンという主張が控えめのように思えるのです。

バラード 第1番 ト短調 作品23

1831年に着手し、完成をみるのはなんと1835年になります。ショパンとしては異例の創作時間です。ショパンが20代前半の作品で、作品中にはまだ死の影は感じられません。さすがに若い時期の作品だけあってほど走る激情、繊細さ極まる情感などとても魅力的で、派手な曲に仕上がっています。

堂々と、しかし静かに語られるように始まる音楽は徐々は非常に印象的な和音構成です。語りかけるかのように主部が始まり、徐々に高揚していきます。夢のような第2主題が現れ、やがてそれは爆発するのです。そしてきらびやかな展開部を経て、激情的なコーダに至る。展開部は緻密で手の込んだつくりです。時間をかけて作曲されたというのがよく分かる箇所のように思います。これ程までに豊かな表情を見せるショパンの音楽は珍しいでしょう。

パリに移ったばかりのショパンの意気込み、大胆さ、自信が窺える作品です。

ショパンの作品の中では独特の位置を占めているように感じるのは私だけでしょうか・・・・・・。また、憧れのピアノ曲としても有名です。

バラード 第2番 ヘ長調 作品38

作曲は1836年から1839年にかけて作曲されました。ちょうどショパンとサンドの仲が深まりつつあった頃の作品であす。構造は2部形式に近いものとされ、それにコーダがついています。第一部の優しい旋律と第二部の嵐のような対比がこの曲の大きな特徴と言えるでしょう。第1主題は非常に牧歌的な穏やかさに満ちています。ここではショパンらしい美というのはあまり発揮されていないように感じます。対して、第2部の激情はショパン以外の何者でもありません。コーダは激しい楽想となっていますが最後に第一部の主題が回想されて静かに曲を閉じます。

この曲はシューマンに献呈されたのですが、彼はあまり高く評価しなかったということです。しかしショパンらしい情熱の嵐は特筆に価します。コーダのオクターブのアルペジオなどは、バラードの1番のコーダと同じ手法で、自信を持ったショパンの書法というのが窺えます。また、曲のつくりがノクターン第4番に似ています。聞き比べてみてください。

バラード 第3番 変イ長調 作品47

1840年から一年程かけて作曲された作品です。同じ時期の作品に 変ロ短調のソナタがあります。バラードの中で最も優雅で、洗練され、貴族的なこの曲を、ショパン自身気に入っていたという話です。先ず非常に上品な導入の後、主部がやって来ます。この主部の主題にはリズムに特徴があり、それがこの曲を優雅に感じさせる原因かもしれません。それくらい特徴的なリズムです。

そして、そのリズムが曲を支配しています。展開部は華麗で流麗なパッセージの次に非常に情熱的なパッセージが登場します。コーダは第一主題が厚い和音となり力強く終わります。この手法はショパンの得意な形で、バラード1番や舟歌などにも見られます。優雅で宝石を散りばめたような美しさが随所にある名曲ではないでしょうか。

バラード 第4番 へ短調 作品52

1843年の作品。バラードの中で最も規模が大きく、音楽的にも内容が濃く、高度な演奏技巧を伴い、演奏するのは至難の業です。ショパンの残した最高傑作の一つと言っていいでしょう。穏やかな序奏の後、もの憂くも非常に印象的な第一主題が静かに提示されれます。この序奏と主題だけで充分すぎるほどの印象を与えてくれます。そしてこの序奏はこの曲の性格を強く物語っているように思えます。

主題は自由に変奏され、コラール風の穏やかな第二主題が現れます。続く展開部は天才の所業で、ショパンの才能の豊かさを示しています。不自然さが微塵もなく、極めて自由に即興的に展開されていく音楽は圧巻です。コーダはショパンの残した音楽の中でも最も激しいものであり、極めて高度の技巧を要します。多分ショパンで演奏するのが一番難しい曲ではないでしょうか。また、この曲を熱烈に愛する人も少なくありません。

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