ピアノ・ソナタ
ピアノ曲解説
傑作とされるショパンのピアノ・ソナタ第2番とソナタ第3番を解説します。
ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 作品35
ショパンの不安と絶望に支配された圧倒的な力強さが、この曲の中にある。ショパンの円熟度がよく分かる曲である。徹底的に重い楽想に支配されたこのソナタはまぎれもなく傑作に数えられよう。
第1楽章はショパンの音楽の中でも最も劇的な作品。激しい情熱が嵐のように展開していくい。その第1主題(譜例)はどこか焦燥感に駆られたような音楽。この右手のリズムはこの楽章全体を支配している。第2主題は第1主題とは対照的で、言うなれば束の間の夢である。続く展開部も激しい楽想に支配されている。
第2楽章は不吉なスケルツォ。連打音はクレッシェンドされ得たいの知れない恐怖が襲いかかって来る。重音の半音進行がその恐怖を加速させる。中間部は美しいがやや冗長。
第3楽章は有名な送葬行進曲。ひたすら絶望のみの世界だが、中間部は天上の音楽。その美しさは格別である。
第4楽章は議論の的になる有名な音楽。不気味な風が吹き荒れる。とてもソナタとは思えない構成となっているが、全曲にあるのは確固たる意志の強さと絶望である。響きという点で不思議な類似性が全曲を支配している。
ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 作品58
この偉大な作品は1844年の夏に作曲された。ショパンはこの頃ノアンのサンド宅で、ジョルジュ・サンドと未だ幸せな生活を送っていた。しかしその年の5月には父を結核で失っている。こうした中で作られたピアノ・ソナタは、ショパンの幸せな面と悲痛な面が曲中に反映されている。しかしここでは悲しみが透明さを持っている。
幸福な中で感じる不安、恐怖、憤りはショパンの晩年の作品において、極度に透んだ、どこか悲しい音楽となって現れる。その透明さはモーツァルトの晩年の作品においても共通するものがあるのだが。この作品において驚くべきは、その主題の豊富さ。これは即ちショパンの感情の豊かさそのものでもある。
泉の如く涌き出てくる楽想は次々と変化する。その力強さと繊細さが圧巻の第1楽章。第1主題のあとの経過部の上昇音階は先行きの知らぬ不安を表す。そのすぐ後に現れる第2主題はなんと悲しく美しいことか。しかも極めてピアニスティックである。ショパンというピアノの天才が自身の感情を最高の形で表現できた証である。
第1楽章はその充実度から考慮するとベートヴェンの熱情と比肩できる(音楽の性格は全然違うが)。
第2楽章は天衣無縫である。ショパンのサロン音楽が現れる。その貴族的かつ繊細な音楽はやはりショパンのものである。
第3楽章の主題は天上の音楽である。悟りの境地にあるとしか思えない静けさと落ち着きはショパンの全作品の中でも際立っている。中間部は微妙な転調を繰り返し多彩な変化を見せる。そして決して一本調子にはならない。再び主題が顔を出すが伴奏形が変化している。曲は不安ながらも長調の和音で閉じる。
圧倒的な第4楽章では全ての音が万華鏡の如く変化する。ここでショパンは強烈な意志の強さを見せる。しかし細かいパッセージはどことなく脆く透明だ。
このピアノ・ソナタは奇跡である。主題が多いので、必然的に規模も大きくなる。虹の如く変化に富み、透明で、美しく、存在感の大きい曲である。この傑作はあらゆるピアノ音楽の頂点に位置する曲であると言っても過言ではない。
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